歯周病と骨粗鬆症

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歯周病と骨粗鬆症

2019年3月15日

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監修:東京医科歯科大学 大学院 生体硬組織再生学講座
歯周病学分野 教授 石川 烈

骨粗鬆症患者では重症の歯周病が発症、進行しやすいことが以前から知られていた。しかし、そのまとまったデータは少なく、その機序についても不明のままであった。最近、ニューヨーク州立大学バッファロー校歯学部口腔生物学のGrossi氏らは、このテーマに注目し、精力的に疫学的研究を行うとともに、その機序についても考察を加えている。そこでGrossi氏に、同氏らの研究成果の概要を紹介していただいた。社会の高齢化とともに骨租髭症が急増しつつある今日、口腔内疾患との関連についても看過は許されないといえよう。

ニューヨーク州立大学バッファロー校
歯学部 口腔生物学 臨床研究所長
SaraG.Grossi氏
歯骨密度は40歳前にピーク値に達する

骨密度がその個人の所与のレベルより低下することを骨減少症(osteopenia)という。一方、骨密度が骨格を維持できるレベル以下に低下し、骨折の危険性が増した状態を骨粗鬆症(osteoporosis)とよんでいる。 すなわち、骨減少症とは単に骨の一連の現象を指しているのに対して、骨粗鬆症は明確に病的状態を指している言葉であるといえる。

男女別にみた人の骨量の経年的変化の画像

(図1)
男女別にみた人の骨量の経年的変化
図1は人の骨量の経年的堆移を男女別に示したものである。男女ともだいたい40歳前にはピーク値に達し、その後は低下傾向をたどって、女性では50歳代に、男性では80歳代に、骨折の危険性が出てくるほどのレベルにまで低下する。

骨量のピーク値がどれくらいにまで達するかは、基本的には個人の遺伝子によって規定されている。そして、幼小児期における栄養、運動、喫煙、飲酒などの後天的要因が、それを修飾している。 しかし、骨量のピーク値のレベルが、その後の骨粗鬆症への罹患の危険性を規定していることは男女とも変わらない。 なぜなら、骨量はいったんピーク値に達した後は低下するだけで、40歳代、50歳代になって再上昇するということはあり得ないからである。骨量がピーク値に達した40歳代以降の年代は、「カルシウム(骨成分)消耗の年代」とよばれている。 したがって、後年における骨粗鬆症の発症を予防するためには、いかに若年時に豊富にカルシウムを摂取し、骨量のピーク値を高めるかということと、その後の低下の速度を緩めるかということが重要になってくる。

骨密度と歯周組織の状態との間に密接な関連 歯周病は歯周プラークに存在する細菌類による感染の結果、歯周組織に炎症が惹起され、そこから歯周組織の破壊がもたらされる疾患と理解される。 歯周病の病原細菌は多くがグラム陰性で、多くの毒素や酵素類を放出し、歯周組織の蛋白質や免疫担当細胞を刺激し、活性化する。その結果、歯周組織に炎症が拡大して、歯周組織の結合組織や骨などが破壊される。もし、骨減少症や骨粗鬆症のために歯周組織の骨も骨量や骨密度の低下を来していたら、歯周病による炎症の拡大はより容易になる。 すなわち、骨減少症や骨粗鬆症は、歯周病における歯周組織の破壊をより容易にする役割、言い換えれば、破壊への閾値を下げる役割をしているといえるだろう。 骨粗鬆症の人に歯の抜けた人が多いことは、よく知られている。また、骨粗鬆症の人では下顎の骨が薄く、義歯の装着が難しいことも、よく報告されている。

われわれは以前に、自然閉経を迎えた60人の女性を対象に、全身の骨密度および歯周組織の状態を調べて、両者の間に関連があるかどうかを検討したことがある。骨密度に関してはニ重X線吸収測定法を用いて、腰椎、大腿、下顎の骨密度を測定した。 歯周組織の状態に関しては、アタッチメントロス、歯槽骨頂の高さ、歯の欠揖、ポケットの深さ、プラーク、歯肉炎指数などについて測定した。 その結果、全身の骨密度、特に大腿の骨密度と歯周組織の状態との間には密接な関連があることが認められた。なお、この検討では、骨粗鬆症と歯周病の共通のリスクファクターである年齢、BMI(肥満指数)、閉経後年齢、ホルモン補充療法、喫煙などの影響は除外してある。すなわち、それら因子で補正後も、なおかつ骨密度と歯周組織の状態との間に関連が認められたわけである。

閉経後の女性では骨密度と歯周病との関連リスクはさらに高まる われわれの検討結果は、その後より大規模なコホート研究によって裏付けられている。これは NHANES(National Health and Nutrition ExaminationSurvey)|||とよばれる研究で、対象としては男性5922名、女性5732名が含まれている。 これを歯周組織に病変のある群とない群に分けて、それぞれの平均年齢、アタッチメントロス、喫煙者の割合、骨密度などを調査した(表1)。

年齢(歳) アタッチメントロス(mm) 喫煙(%) 骨密度(g/cm2)
男性
歯周病群 52.1 2.59 76.0 0.99
非歯周病群 36.8 0.69 53.6 1.03
女性
歯周病群 57.6 2.42 46.0 0.83
非歯周病群 43.1 0.66 35.1 0.90

(表1)
歯周病群と非歯周病群における平均年齢アッタチメントロス
喫煙率、骨密度(NHANES|||)

男女とも、歯周病群では非歯周病群に比べて、明らかに平均年齢は高く、アタッチメントロスは大きく、喫煙者の割合は高く、骨密度は低い。

歯周病と骨滅少症の関連リスクの画像

(図2)
歯周病と骨滅少症の関連リスク(全対象) 図2は男女を合わせた群で、歯周病と骨密度との関連リスクをみた成績である。 臀部全体の骨密度でみた場合、年齢、喫煙などで補正後の歯周病との関連リスク(オッズ比)は1.8である。すなわち、臀部に骨減少症がある場合はない場合に比べて、1.8倍歯周病を発症する率が高いということになる。

(図3)
歯周病と骨萎縮の関連リスク(閉経後女性) 図3は閉経後の女性だけについて、歯周病と骨密度との関連リスクをみた成績である。この場合の関連リスクは、男女あわせてみた場合よりも、さらに高くなっている。 NHANES|||では、歯の欠損と骨密度との関連についても調査しているが、やはり骨密度の低下しているほど歯の欠損も多いという結果であった。

エストロゲン欠乏が骨吸収の促進を介して歯周病を発症、進展させる 閉経後の女性で骨減少症や骨粗鬆症が多いということに関しては、当然、女性ホルモン欠乏による影響が考えられる。最近の研究でも、エストロゲンが骨に直接働きかけて骨形成を促進する他、骨吸収性のサイトカイン類の産生抑制を介して、間接的に骨形成を促進することなどが明らかにされている。

エストロゲン欠乏による 歯周病発症のシェーマ の画像

(図4)
エストロゲン欠乏による 歯周病発症のシェーマ 図4はエストロゲンの欠乏が骨吸収の亢進を介して、歯周病を発症、進展させる道筋をシェーマ化したものである。 エストロゲン欠乏はマクロファージや骨芽細胞のアップレギュレーションを招き、それらへの内毒素の刺激により骨吸収性のサイトカイン類が過剰に産生される。これにより骨吸収が促進されるとともに、コラーゲン組織も破壊され、歯周病発症と進展の素地が形成されるわけである。

エリー群スタディー(Erie County Study)とよばれる研究では、エストロゲン欠乏と歯周病発症との関連について検討している。 対象は25~74歳の女性で、これを閉経前の女性と閉経後の女性に分け、歯周組織の状態を比較した。その結果、閉経後の女性は閉経前の女性に比べてアッタチメントロスが大きいが、閉経後でもエストロゲン補充療法を受けている女性は受けていない女性に比べて、アッタチメントロスの拡大は抑制されていた(図5)。

重度のアッタチメントロスの割合の画像

(図5)
重度のアッタチメントロスの割合

同じことは歯槽骨吸収に関してもいえ、閉経によりもたらされる深刻な歯槽骨吸収は、エストロゲン補充療法により、かなり抑制されることが認められた(図6)。

歯槽骨吸収の割合の画像

(図6)
歯槽骨吸収の割合

以上から、骨減少症および骨粗鬆症が歯周病の発症、進行に密接に関連することは明白である。今後、特に閉経後の女性においては、骨粗鬆症対策とともに歯周病予防の有効な手だてを考えることが急務となってくると思われる。

〈2001.4.3掲載〉

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