歯周病と心臓血管疾患

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歯周病と心臓血管疾患

2019年3月15日

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歯周病の人はそうでない人に比べて、心筋梗塞などの心臓血管疾患にかかる確率が高い。最近、このような驚くべき研究結果が米国で報告され、大きな話題となっている。報告したのはノースカロライナ大学DentalEcology教授のJamesD .Beck氏。同氏によれば、歯周病による炎症は心臓血管系にも波及し、そこで動脈硬化を進展させることで心臓血管疾患の発症リスクを高めるという。以下に同氏らの研究の概要について紹介する。

ノースカロライナ大学
Dental Ecology教授
James D.Beck氏

歯周炎の炎症は心臓血管系にも波及する 歯周病には種々のものがあるが、このうち成人性歯周炎に関しては心臓血管疾患の危険因子になることが、複数の疫学データから明らかになりつつある。成人性歯周炎以外の歯周病についても、今後検討が進めば、おそらく心臓血管疾患と何らかの関連のあることが明らかになるものと思われるが、現在のところデータは十分ではない。

口腔内細菌感染症である歯周病が全身疾患である心臓血管疾患に影響を与えるメカニズムとしては、口腔内の炎症が血流を介して心臓血管にも波及することが考えられる。したがって、歯周炎と心臓血管疾患では、多くの共通する炎症性物質が同じような作用をしていることが想定される。

たとえば、歯周炎では原因菌の放出するエンドトキシンの刺激により単球が活性化され、その結果、過剰なPGE2やIL-1、TNF-αなどの物質が産生される。そして、これら物質が酸化ストレスを促進することで、歯周組織に骨吸収などの炎症性の組織破壊をもたらす。

一方、これら物質が心臓血管に移行し、そこで作用すると、やはり強力な酸化ストレスにより脂質過酸化、マクロファージの泡沫細胞化、コレステロール沈着、血管平滑筋の増殖、血栓形成などを引き起こす。そして、結果的に心臓血管疾患の原因となる粥状硬化を発生、進展させるものと考えられる。

歯周炎が重篤なほど心臓血管疾恵の発症リスクも高い 歯周炎と心臓血管疾患の関連性については、これまでいくつかの研究が行われている。そのうちの4つのコントロールスタディの成績のまとめでは、歯周炎のある人はない人に比べて、心臓血管疾患を発症するリスクが20~180%高くなっている。

6~18年間にわたる長期試験も5つ行われているが、これらの試験のまとめでも、ベースラインにおいて歯周炎のある人はない人に比べて、やはり心臓血管疾患を発症するリスクが20~180%高いという結論になっている。また、歯周炎の程度と心臓血管疾患の発症リスクとの間には正の相関があり、歯周炎が重篤であればあるほど心臓血管疾患を発症するリスクは高くなるということも示されている。長期試験の1つでは、ベースラインにおける歯周炎の重篤度を骨揖失の程度でいくつかのグループに分け、18年間の追跡期間中における心臓血管疾患の発症率をみている。それによると、骨損失20%よりは40%のグループのほうが、また40%よりは60%のグループのほうが心臓血管疾患の発症率が高いという正の相関が認められている(図1)

ベースラインにおける骨損失の程度と 心臓血管疾患(CHD)罹患率の関係の画像

(図1)
ベースラインにおける骨損失の程度と
心臓血管疾患(CHD)罹患率の関係
(年齢により補正)

 
歯周炎があると下肢動脈の粥状硬化も進展する われわれは米国のNationalHeartInstituteの主導によりARIC study(atherosclerosis risk in community study)と呼ばれる試験を実施している。対象は米国の4つの地域でエントリーした45~64歳の人たちで、心臓血管に明らかな粥状硬化が認められるか、または心臓血管疾患の自覚症状のある人を除外した約4,000例。

本試験は当初は粥状硬化の程度と心臓血管疾患の発症リスクとの関連を探ることが目的でスタートしたが、その後、新たに歯周炎と心臓血管疾患の発症との関連を探るという目的が追加された。なお、本試験では心臓血管における粥状硬化の程度を表す指標としてIMT(intimamedia wall thickness:頸動脈の内膜・中膜肥厚)を、また、下肢における粥状硬化の程度を表す指標としてLEAD(lower extremity arterial disease:下肢動脈疾患)変数を測定した。

その結果、口腔内に3mm以上のアタッチメントロスが60%以上あり、歯周炎があると判断される人たちは、歯周炎のない人たちに比べて、明らかに心臓血管疾患に罹患するリスクが高いことが示された(図2)。

ベースラインにおける骨損失の程度と 心臓血管疾患(CHD)罹患率の関係

(図2)
歯周炎の程度と心臓血管疾患(CHD)罹患率との関係
(歯周病の程度はアタッチメントロスで評価 データは
年齢による補正を加た n=6691)
心臓血管疾患のその他の危険因子である肥満、高血圧、コレステロール・レベル、糖尿病の有無、喫煙習慣といった因子で補正すると、歯周炎がある場合はない場合に比べて心臓血管疾患を発症するリスクが50%高かった。  また、歯周炎の程度とIMTとの間には正の相関が認められ、歯周炎が重篤であるほど動脈壁の肥厚が大きいことも示された(図3)。

歯周炎の程度とIMTとの関係の画像

(図3)
歯周炎の程度とIMTとの関係
(歯周炎の程度はアタッチメントロスで
評価 データは年齢による補正を加た n=6072)
その他の危険因子で補正して歯周炎の動脈壁肥厚に対するオッズ比を求めると、約50%であった。

LEAD変数はankle brachial indexとして表現される。すなわち、踝部の血圧と上腕部の血圧を測定し、前者が後者の90%以下である場合は下肢動脈の粥状硬化が進展しており、LEADが存在することになる。われわれの検討の結果では、歯周炎がある場合はない場合に比べて、やはりLEADが存在する率が高かった。性、高血圧、糖尿病などの因子で補正すると、歯周炎のLEADに対するオッズ比は1.6であった (図4)。

下肢動脈疾患のリスク因子としての歯周病の画像

(図4)
下肢動脈疾患のリスク因子としての歯周病
(下肢動脈疾患はLEAD変数で評価
性、高血圧・糖尿病の有無などで補正)
P.gingivaris感染による粥状硬化の進展を動物実験でも確認

カナダのトロント大学の病理学教室では、ヒトの頸動脈や冠動脈における粥状硬化で、最も主要な歯周炎の原因菌とみなされているPorphyromonas gingivalis(P.gingivalis)がどれくらいの頻度で分離されるかを検討している。

それによると、採取した頸動脈、冠動脈の粥状硬化の、それぞれ約40%からP.gingivalisが分離されたという。心臓血管疾患を有してなくて交通事故死した人などで検索しても、頸動脈や冠動脈からP.gingivalisが分離されることはまずない。したがって、心臓血管疾患を起こした人では、口腔内のP.gingivalisが生体内に侵入し、それにより粥状硬化が形成されたと考えられるわけである。

われわれは口腔内のP.gingivalisが全身に波及した結果として、肝でCRPが産生されるか、SAA(血清アミラーゼ)が産生されるか、血清脂質レベルが上昇するかなどについて、動物実験で検討している。

方法は、まずApo Eheterozygousマウスに正常食または高脂肪食を与え、このマウスの背部にチェンバーを埋め込む。そして、このチェンバーを通して加熱処理したP.gingivalisを注入してマウスを免疫化(プライミング)した後、P.gingivalisの生菌をチャレンジする。つまり、マウスに無症状のP.gingivalis感染を起こすわけであるが、これは歯周炎に似た状態が生体の遠隔部位で起こっているのと同様である。

次にチェンバーから材料を採取して、CRP、SAAレベルなどを検討した後、マウスを屠殺して、組織学的にもどのような変化が起きているかを検討した。 その結果、P.gingivalisに感染させたマウスは感染させなかったマウス(対照)に比べて、CRP、SAA、またコレステロールやトリグリセリドが有意に上昇していた(図5)。

P.gingivalis触感染および非感染マウスの画像

(図5)
P.gingivalis触感染および非感染マウスにおける
CRP、SAA、コレステロール、トリグリセリド
組織学的な検討として、P.gingivalis感染マウスと非感染マウスで粥状硬化の総面積を比較した成績でも、前者は後者よりはるかに値が大きかった。  また、P.gingivalis感染マウスでは、経時的に粥状硬化の面積が拡大していくことが認められた(図6)。

P.gingivalis感染マウスにおける経時的な粥状硬化面積の拡大の画像

(図6)
P.gingivalis感染マウスにおける経時的な粥状硬化面積の拡大
P.gingivalis感染マウスでは粥状硬化の石灰化も経時的に進行していたが、非感染マウスでは、まったく石灰化は起こっていなかった(図7)。

P.gingivalis触感染マウスにおける経時的な粥状硬化石灰化の進行の画像

(図7)
P.gingivalis触感染マウスにおける経時的な粥状硬化石灰化の進行
さらに、P.gingivalis感染マウスでは非感染マウスに比べて、石灰化の主要な原因であるBMP(bone morphogenetic protein)-2の発現が亢進していることも示された。

心臓血管疾患の発症、進展抑制にデンタルケアが大きな利益をもたらす
われわれの検討などにより、歯周炎が全身疾患である心臓血管疾患に対しても影響を及ぼすということについては、徐々にではあるがデータがそろいつつある。

しかし、この方面の研究はまだ始まったばかりであり、これでデータが十分であるとはとうていいえない。今後は、より多くの施設からのデータの集積が望まれる。また、歯周炎が心臓血管疾患に影響を及ぼすメカニズムについても、あわせて、より多くの施設での研究を期待したい。
歯周炎は適切なデンタルケアにより、比較的容易に治療、予防が可能な疾患である。

したがって、歯周炎が心臓血管疾患のリスク因子であることが事実とするならば、デンタルケアは心臓血管疾患の発症と進展を抑制する上で大きな利益をもたらすことになる。最後にそのことを付け加えておきたい。

〈2001.4.2掲載〉

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